モノが売れないと言われる時代に消費を研究している人のブログ

広告会社で、消費について研究するサラリーマン研究員のブログです。専門は駅の消費です。

メタ観光が来るという話

「メタ観光」って知ってますか?

google先生に聞いても3ページ以内には出てこないこの言葉。(2018.3.31 21:30現在)

 

政策分析ネットワークシンポジウムに行ってきた人の話によると、「メタ観光」が来るらしいのだ。

 

君の名は。」「ガールズ&パンツァー」など、アニメをはじめとした聖地巡礼が新しい観光のスタイルとして注目されているそうだ。インバウンドのなんと4.8%もが聖地巡礼と言われているらしい…(どの市場の4.8%なのかはわからないのだが…)

こうした聖地巡礼の特徴はなんだろうか。名所、史跡は地図に載るが、「三葉が登下校で通っていた道」などは地図に載らないし、ポケモンGOの「ケンタロス」や「ヘラクロス」がどこでゲットできるかgoogle mapは教えてくれない。これまでの観光と違い、コンテンツという現実にはないものが観光のひとつの目的となっている。現実の土地というレイヤーの上に、アニメやゲームの世界というレイヤーが重ねられる。つまり「メタ観光」というわけなのだ。ポケモンGOのようなARや、聖地について共有・拡散できるSNSなどのツールが普及したことが、新たな観光につながった。

 

ところで、(本当に、ところで、)フィリップ・ジョンソンのガラスの家は、ミース・ファン・デル・ローエのファンズワース邸のスケッチをもとに発想されたと言われている。ガラスの家には、キュレーターであり巨万の富を手にしたフィリップ・ジョンソンが選んだ本物の美術品が並んでいたそうだ。その中で、一点だけ、偽物であることが判明した作品があったのだが、彼はそれをもっとも気に入り大切にしていたという。それは何故か? それは、その作品が偽物だったことで、「情報の時代」の到来を象徴していると感じたからだという。精巧に作られた偽物は、モノ自体は本物と変わらないモノである。しかし、本物は価値があると判断され、偽物は無価値と判断される。モノがほぼ変わらないのであれば、本物と偽物との差は何か。それが情報であり、情報で価値が変わるというのだ。(なお、この一連の話はかつて某大学院の授業にて聞いた話。うろ覚えの部分もあるので多少誤っているかもしれません)考えてみれば、フィリップ・ジョンソンの職業であるキュレーターは、美術品に意味づけ=情報を付加することで、価値をつける仕事だといえる。”本物”の建築家であるミースのファンズワース邸に似たガラスの家の中で、”偽物”の作品を大事にしたフィリップ・ジョンソン

 

先のメタ観光と、上記はまったく違う分野の話だが、両者とも情報にこそ価値があることを示唆している。

 

ここまでで、メタ観光が盛んになっている、情報に価値がある、ということはわかった。でも、旅行者を呼びたい地域はなにをすればいいのか?そのシンポジウムでは明確な解はなかったらしい。私たちの研究所でも、研究テーマとして、聖地巡礼をとりあげようと考えていたことがある。しかし、少し調べてみてわかったことには、アニメの舞台となる土地は作者の居住地であったり、現実の土地をモデルにしても流行るアニメもあれば、流行らないアニメもある。アニメやゲームには成功の方程式はないだろうし、プロダクトプレイスメントのように計画的に土地を舞台にしても、流行らない(と思う。提供側の意図なんて見透かされるものだし、生活者にとっては意図的なものは興ざめなものです) 計画的に聖地巡礼を作り出すことは難しい。できることといえば、聖地になった土地が巡礼を活性化することくらいだと思う。ただ、それも十分にはできていないだろうから、そこから始めればいい。

 

<蛇足>

おととし参加した都市計画学会にて、インスタ映えするスポットや、撮影に最適なスポットを可視化する研究が発表されていた。たとえば、これまではスカイツリー自体を観光名所として紹介していたが、足元ではスカイツリー自体はうまく撮影できない。実際に、実はスカイツリーは、墨田川の対岸から撮影されることが多いそうだ。であれば、撮影スポットのデータを収集して、観光マップ化したらいいのではないかというアイデアだった。「観光」が、現実のモノ・場を観るのではない「観る」行動になってきていると感じる。